悪ku夢

怖い夢を見ました。

夜、小学2年生まで住んでいた父方の実家に俺と母親の二人で住んでいる設定で、古くなって床が撓んでいるトイレに行くと、擦りガラス越しに人の影が。不法侵入者だ。とてもこわい。

ただでさえ人間はこわいものなのに夜に庭に入り込む人間なんてもっとこわい。やめてほしい。

夢の中の僕は多動衝動が先鋭化していて、擦りガラスの窓を殴って無駄に外の侵入者を威嚇した。小学生のころに押してはいけないと分かっていても消火栓のボタンを押したくなってしまう気持ちが大人になっても消えなかったということだろう。

侵入者は怒ったのか裏の勝手口の方に走り込んで来て、ノブを破壊して家の中、台所に入り込んできた。

不法侵入者はおじさん。

水色のジャージを着て無精ひげを生やし、みすぼらしい感じだが目が据わっていて、何をやらかすかわからない圧力を放っていた。片手にはぬらぬらと光る三徳包丁が握られていた。

僕とおじさんは取っ組み合いになって、どうにかおじさんを組み伏せた。大声で二階に居る母親を呼んで、早く警察を呼んで外へ逃げろと言った。

しかし夢の不条理な所が出て、母親はトロトロと反応せず、僕とおじさんの降着状態は何十分と続いた。僕はいつおじさんに反撃されるかという恐怖と、なぜ思い通りに物事が動いてくれないのかという苛立ちとが募って、なんだか泣きだしたいような気持になっていた。密着したおじさんの加齢臭が混ざった匂いが吐き気も誘っていた。

組み伏せているおじさんが横顔だけが見えるように首を捻ってこちらを見て、据わった目の焦点を僕に合わせ、口元だけ少し吊りあげて、心の底が見えない笑い方をしながら何かを喋ったのだが、それが何だったのかは覚えていない。

覚えてないけど酷く残酷で、全てを諦めてしまうような一言だった。

背中にビショビショに汗をかいて、不快感とともに目が覚めると、枕に被せているタオルケットの皺が夢で見たおじさんの横顔のように見え(または睡眠が浅く、おぼろげに見えていたタオルケットの皺からおじさんの横顔を連想していたのかもしれない)、僕は大声をあげて飛び起きた。

その皺は、瞬く間にテクスチャーがタオル時から肉のそれへと変わって、ムクムクと盛り上がり、夢で見たおじさんになった。

一方僕は無力なぬいぐるみに変身していて、自分の力では動くこともままならない。

おじさんはぬいぐるみの僕に何度も何度も包丁を突き立てて、そのたびに綿が中から飛び出した。その綿は部屋を埋め尽くし、これ以上ないほどの密度を得ると、一点に集約してちいさな飴玉になり、床に転がった。

おじさんはそれを拾って口の中へ放り、コロコロと口の中で転がした後、奥の歯でガリっと噛み砕き、そこで僕の意識は消失した。

おじさんは残ったぬいぐるみの皮で包丁を包み、そっとへやを出て行った。

壁 (新潮文庫)